大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成7年(ワ)14262号 判決

原告

ジャパンスチールスインターナショナル株式会社

右代表者代表取締役

與那原好宏

右訴訟代理人弁護士

松枝夫

右輔佐人弁理士

山本彰司

被告

綜建産業株式会社

右代表者代表取締役

萩原博夫

右訴訟代理人弁護士

岩崎茂雄

右輔佐人弁理士

羽鳥亘

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙物件目録記載の物件の製造、販売及び使用をしてはならない。

2  被告は、原告に対し、金四八六〇万円及びこれに対する平成七年八月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の意匠権

原告は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を有している。本件意匠権には、次の類似第一号ないし第三号の意匠(以下その登録意匠を「本件類似意匠一ないし三」という。)が合体している。

(一) 本件意匠権

出願日 昭和六二年三月二三日

登録日 平成二年五月二九日

登録番号 第七九三八一九号

意匠に係る物品 足場板用枠

登録意匠 別紙意匠公報写(一)のとおり

(二) 類似意匠第一号(本件類似意匠一)

出願日 昭和六三年六月九日

登録日 平成二年五月二九日

登録番号 第七九三八一九号の類似一

意匠に係る物品 足場板用枠

登録意匠 別紙意匠公報写(二)のとおり

(三) 類似意匠第二号(本件類似意匠二)

出願日 平成四年一一月一〇日

登録日 平成六年七月二一日

登録番号 第七九三八一九号の類似二

意匠に係る物品 足場板用枠

登録意匠 別紙意匠公報写(三)のとおり

(四) 類似意匠第三号(本件類似意匠三)

出願日 平成四年一一月一〇日

登録日 平成六年七月二一日

登録番号 第七九三八一九号の類似三

意匠に係る物品 足場板用枠

登録意匠 別紙意匠公報写(四)のとおり

2  被告の行為

被告は、業として、遅くとも平成四年当初から、別紙物件目録記載の意匠の足場板用枠(以下「被告製品」といい、その意匠を「被告意匠」という。)を製造、販売し、また他にリースしており、現在もこれを続けている。

なお、被告製品の各部の名称は、別紙名称説明図のとおりである。

3  意匠に係る物品の同一

被告製品は足場板用枠であり、本件登録意匠の意匠に係る物品と同一である。

4  本件登録意匠と被告意匠の類似

(一) 本件登録意匠の形態の要部は、次の三点である。

(1) 腹起こし(H形鋼を断面H字形となる態様で用いたもの)に対する水平取付部材が、略三角形状、かつ水平支持杆に対してスライド自在に構成されている。

(2) 手摺柱が水平支持杆の末端から起立している。水平支持杆の末端に手摺柱起立部を設けて手摺柱を起立させた場合を含む。

(3) 水平支持杆の先端が腹起こし上面の反対側に戴置する構成である(水平支持杆が腹起こしの幅全体に載る構成である)。

(二) 被告製品の水平支持杆の末端には手摺柱はないが、本件類似意匠一と同様に手摺柱起立部が設けられていて、全体としてL字型をなしているから、本件登録意匠と類似する。また、被告意匠は、手摺柱が取り付けられていないが、手摺柱起立部には手摺柱を起立させることが予定され、使用時には安全確保のため必ず手摺柱が起立させられるから、被告製品の手摺柱起立部に手摺柱を起立させた状態で本件登録意匠と比較すべきである。そうすると、被告意匠は、本件登録意匠と右要部において類似している。

(三) 被告意匠の具体的構成態様のうち、水平取付部材の梁部固定部は、比較的大きな略三角形状(ひれ型)をしている。ここが、看者の注意を引く要部である。そして、この点は、本件類似意匠二及び三と酷似している。したがって、本件類似意匠二及び三を参酌して本件意匠の類似範囲を確定すれば、被告意匠は、本件登録意匠と類似していることになる。

5  間接侵害

仮に、右4の主張が認められないとしても、被告製品は、本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物に当たる。

(一)(1) 被告製品のリースを受けた建設業者等のユーザーは、手摺柱起立部にポールを立てた別紙図面Aのとおりの形態で使用するものである。

本件登録意匠登録と別紙図面Aの形態の意匠(以下「A意匠」という。)とを対比すると、A意匠は、本件登録意匠の要部である前記4(一)の(1)ないし(3)の形態を全て具備しており、両意匠の相違点は水平取付部材の下部の梁部固定部の形状のみである。

しかし、本件類似意匠一ないし三の構成及び一般需要者による肉眼による間接対比、全体観察の見地からすれば、A意匠と本件登録意匠とは一般需要者が彼此混同を生じる程に類似している。

したがって、被告製品のリースを受けたユーザーが、手摺柱起立部にポールを立てて使用する行為は、本件登録意匠の侵害となる。

(2) 被告製品は、足場板用枠で腹起こしH形鋼に用い、作業者の通行の安全のための安全柵をつけるための製品であり、手摺柱起立部が設けられているから、そこに手摺柱を起立させないことはあり得ない。通常の経済人であれば、被告製品を借り受ければ、必ず手摺柱を起立させて使用するのであり、例外的場合を除いて、ただの枕パイプ(足場板を下から支えるだけのパイプ)として使うことはない。もし、被告製品に手摺柱を立てない場合は、手摺柱起立部を遊ばせることになるが、それは本来のふさわしい用法ではなく、常識的、経済的に実用的な用法ではない。したがって、被告製品は、本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物である。

(二)(1) 仮に被告製品が別紙図面Aのとおりの形態のみで使用するものでないとしても、それ以外の使用方法は、被告製品と共に伸縮自在手摺(商品名ラージテッスル。以下単に「ラージテッスル」ということがある。)のリースを受けた建設業者等のユーザーが、手摺柱起立部にラージテッスルを立てて使用するものである。ラージテッスルには、横手摺が短いもの(以下「短棒ラージテッスル」という。)と長いもの(以下「長棒ラージテッスル」という。)があり、被告製品の手摺柱起立部に短棒ラージテッスルを立てた場合の形態は別紙図面Bのとおりであり、長棒ラージテッスルを立てた場合の形態は別紙図面Cのとおりである。

(2) 本件登録意匠と別紙図面Bの形態の意匠(以下「B意匠」という。)とを対比すると、B意匠は本件登録意匠の要部である前記4(一)の(1)ないし(3)の形態を全て具備しており、両意匠は類似している。B意匠の手摺柱の上部には直角に交差する水平の二本の短い棒(横手摺)が設けられている点が相違しているが、右二本の短い棒は別の用途目的のために取り付けられた付加部分であり、この二本の棒が設けられたことによって、本件登録意匠とB意匠が非類似となるものではない。

本件登録意匠と別紙図面Cの意匠(以下「C意匠」という。)とを対比すると、C意匠は本件登録意匠の要部である前記4(一)の(1)ないし(3)の形態を全て具備しており、両意匠は類似する。C意匠の手摺柱の上部には直角に交差する水平の比較的長い棒(横手摺)が設けられ、該二本の棒の先端近くが連結されている点が相違しているが、右二本の長い棒は別の用途目的のために取り付けられた付加部分であり、この二本の棒が設けられたことによって、本件登録意匠とC意匠が非類似となるものではない。

したがって、被告製品のリースを受けたユーザーが手摺柱起立部にラージテッスルを立てて使用する行為は、短棒ラージテッスルであっても長棒ラージテッスルであっても、本件意匠権の侵害となる。

(3) 被告製品のリースを受けた建設業者等のユーザーは、手摺柱起立部にポールを立てたA意匠、短棒ラージテッスルを立てたB意匠、長棒ラージテッスルを立てたC意匠のいずれかの態様で使用するものであり、そのいずれの場合も本件登録意匠に類似するから、被告製品は、本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物である。

6  損害

(一) 原告は、本件登録意匠と同一の足場板用枠を製造し、建設会社等にリースしているところ、前記2の被告の行為により、自社製品のリースによる得べかりし利益を喪失した。平成四年一月から平成六年一二月までの右得べかりし利益は、四八六〇万円を下らない。

(二) 右事実が認められないとしても、前記2の行為により、被告は、次のとおり、二二三九万六〇〇〇円の利益を得たから、少なくともこの額については、原告の受けた損害額と推定される。

(1) 被告の年間リース個数

六〇〇〇個

(2) 一個当たりの一日リースの平均利益 四円二〇銭

(3) 一個の平均年間リース稼働日数

二三七日

(4) 被告の販売期間(年)

三年九ヶ月

5 (1)×(2)×(3)×(4)

二二三九万六〇〇〇円

7  結論

よって、原告は、被告に対し、本件意匠権に基づき、被告製品の製造、販売及び使用の差止めを求めると共に、本件意匠権侵害の不法行為による損害賠償として、四八六〇万円及びこれに対する不法行為の後で、訴状送達の日の翌日である平成七年八月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(原告の意匠権)は認める。

2  同2(被告の行為)のうち、被告が業として被告製品を製造し、これを他にリースしていたこと、及び現在もこれを行っていること、また、被告製品の各部の名称が別紙名称説明図のとおりであることは、認める。

3  同3(意匠に係る物品の同一)は否認する。

本件登録意匠は、「足場用手すり柱」に関する意匠に分類されているが、被告意匠は、「足場用ブラケット」として明らかに異なる分類とされているから、両者は非類似である。

4  同4(本件登録意匠と被告意匠の類似)は否認する。

(一) 本件登録意匠の基本的構成は、水平支持杆の一方の端に手摺柱が取り付けられているものであるのに対し、被告意匠の基本的構成は、水平支持杆の一方の端に単に手摺柱が取付可能なように手摺柱起立部が設けられているものである。この結果、手摺柱が設けられた本件登録意匠は、全体としてL字形の形状をなすが、被告意匠は、全体として横I字形をなすものだから、両意匠は、看者に異なった美感を与えるものであり、非類似である。

被告製品の手摺柱起立部に手摺柱を起立させた状態で本件登録意匠と比較すべきであるとの原告の主張は、形状が特定できない不特定な手摺柱部分を本件登録意匠の範囲に含ませるという不当なものである。

(二) 原告は、被告意匠の具体的構成態様のうちのひれ型の部分が、本件類似意匠二と極めて類似していることを強調する。しかし、本件類似意匠二は、平成四年一一月一〇日に出願されたものであるが、その時点では、既に被告製品が販売されていたから、被告意匠は公知となっていた。それにもかかわらず、本件類似意匠二が登録されたことは、むしろ被告意匠と本件登録意匠が非類似であると特許庁が判断したことを示す。

5  同5(間接侵害)のうち、ユーザーが被告製品に手摺柱を立てて使用した場合に、別紙図面Aのとおりの意匠になる場合があること、被告製品に短棒ラージテッスルを立てた場合の意匠が別紙図面Bのとおりであり、長棒ラージテッスルを立てた場合の意匠が別紙図面Cのとおりであることは認め、その余は否認ないし争う。被告意匠は、本件登録意匠に係る物品の製造にのみ使用する物とはいえない。

被告製品は、手摺柱がない足場用ブラケットとしてリースされており、現場の用途に応じて、手摺柱を立てずに使用されることもある。

また、リース後に、ユーザーが被告製品の手摺柱起立部に任意のポールを立てて、全体として足場用手摺柱として使用することもある。しかし、この場合に使用されるポールの口径や形状に制限はないから、各々のユーザーの工事現場で異なるものが使用されている。よって、被告意匠のポールを立てて使用した場合でも、本件登録意匠と類似した意匠となるとは限らない。

さらに、被告は、被告製品と共に、ラージテッスルをリースすることもあり、その際は、被告製品の手摺柱起立部にラージテッスルを立てて使用されるが、その場合の形態は、本件登録意匠と全く異なる。ラージテッスルの横手摺の水平棒の部分は、意匠の類否判断に影響する重要な構成部分である。

6  同6(損害)は争う。

7  同7(結論)は争う。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(原告の意匠権)、並びに同2(被告の行為)の内、被告が業として被告製品を製造し、これを他にリースしていたこと、及び現在もこれを行っていること、被告製品の各部の名称が別紙名称説明図のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  本件登録意匠の構成

本件登録意匠の基本的構成態様は、棒状の水平支持杆と、その一方の端において直角に交わり上方に伸びる手摺柱とが、側面視においてL字形又は逆L字形(以下単に「L字形」という。)の形状をなし、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり、その具体的構成態様は、水平取付部材の一部である梁部固定部が右側面視において左方下垂板が極めて短い7の字に近い形で、梁部固定部の右方下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記右方下垂板中程にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され、また、水平支持杆の他方の端の水平支持部が下方へ向けた板状の二枚の突起部を備え水平支持杆の末端を包むような形で設けられているものである。

三  本件登録意匠の要部

本件登録意匠に係る物品は、足場板用枠であるが、弁論の全趣旨によれば、具体的には、建設工事現場でH形鋼を断面がH形となる形態、すなわち、H形鋼を構成する二枚の平行な外側板が上下方向に立ち、中間の板面が水平になる状態(「腹起こし」ともいう。)で用いた梁の上に足場板を支持すると共に、手摺を仮設する足場板用枠であり、この場合、右意匠に係る物品は、二枚の外側板の上方へ向いた端部に固定されることになることが認められる。

右のような本件登録意匠に係る物品の用途、機能等からみて、右物品について看者の注意を惹く要部は、前記基本的構成態様及び具体的構成態様の双方であると認められる。

四  被告意匠の構成

被告意匠の基本的構成態様は、棒状の水平支持杆と、その一方の端において直角に交わる極めて短い手摺柱起立部を有し、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり、その具体的構成態様は、右側面視において、水平取付部材の一部である梁部固定部の左縁を構成する板が比較的大きな略三角形状をなし、その三角形状の板の下部には固定ねじが配され、梁部固定部の右縁を構成する下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記下垂板の下端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され、水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられているものであることが認められる。

五  本件登録意匠と被告意匠の類否等

1  成立に争いのない甲第一〇号証の一、二、乙第二号証の一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一ないし七、甲第五号証、甲第六号証の一ない三、乙第八号証の一、二、乙第九号証の一ないし三、乙第一〇号証の一、二、乙第一二号証、及び乙第一五号証によれば、被告製品は、建設工事現場において腹起こしの状態で設置されたH形鋼の上に足場板を設けるための足場板用枠であることが認められるから、本件登録意匠と被告意匠とは意匠にかかる物品が同一である。

2 本件登録意匠と被告意匠を比較すると、まず、基本的構成態様においては、棒状の水平支持杆を有すること、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されていることは、共通しているが、本件登録意匠では、水平支持杆の一端から直角に手摺柱が上方に伸び、これと水平支持杆とが、側面視においてL字形の形状をなしているのに対し、被告意匠では、水平支持杆の一端から直角に上方へ向いた極めて短い手摺柱起立部と水平支持杆とが側面視においてキセル型の形状をしていることが相違している。

また、具体的構成態様においては、右側面視において、水平取付部材の一部をなす梁部固定部の右方(右縁)下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記下垂板の中程又は先端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状を構成する点は共通しているものの、梁部固定部が本件登録意匠では右側面視で左方下垂板が極めて短い7の字に近い形であるのに対し、被告意匠ではその左縁を構成する板が比較的大きな略三角形状をなし、その三角形状の板の下部には固定ねじが配されている点で相違し、水平支持杆の他方の端の水平支持部の形態が、本件登録意匠では、下方に向けて板状の二枚の突起部を備え、水平支持杆の末端を包むような形で設けられているのに対し、被告意匠では、水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられている点において相違がある。

なお、本件類似意匠二及び三はいずれも、本件登録意匠の基本的構成態様を有すると共に、具体的構成態様として、水平取付部材の一部をなす梁部固定部を構成する板が略三角形状をなし、その三角形状の板の下部には固定ねじが配され、水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられていることが認められる。

3 右認定の本件登録意匠と被告意匠の構成態様の共通点と相違点によれば、被告意匠の梁部固定部及び水平支持部の具体的構成態様が本件類似意匠二及び三のそれと共通する点があることを参酌しても、要部である基本的構成態様において、本件登録意匠では、手摺柱が上方に伸び、これと水平支持杆とが、側面視においてL字形の形状をなしているのに対し、被告意匠では、短い手摺柱起立部があるのみである点で、両者は大きく異なっているから、本件登録意匠と被告意匠は、全体として、看者に異なる美感を与えるものであって、両者が類似しているということはできない。よって、原告の直接侵害の主張は理由がない。

4 なお、原告は、被告製品の手摺柱起立部には、必ず手摺柱が起立させられることが予定されるから、手摺柱を立てた状態で本件登録意匠と比較すべきである旨を主張するが、直接侵害の成否を考える際には、現実の被告製品の意匠を本件登録意匠と比較すべきであるところ、被告製品は手摺柱が起立していないものであるから、原告の主張は採用できない。

六  間接侵害について

1(一) 前記甲四号証の一ないし七、甲第五号証、甲第六号証の一ないし三、甲第一〇号証の一、二、乙第二号証の一、二、乙第八号証の一、二、乙第九号証の一ないし三、乙第一〇号証の一、二、乙第一二号証、及び乙第一五号証によれば、被告製品のリースを受けた建設会社等は、建設工事現場において、腹起こしの状態で設置されたH形鋼の上に足場板を設けるための足場板用枠として被告製品を使用するに当たり、被告製品の手摺柱起立部にポールを立設し、これに横手摺となるパイプを連結する場合の外、被告製品を手摺柱起立部に何も立設せず、そのまま足場板を支持するものとして使用する場合、手摺柱起立部に短棒ラージテッスルを立設する場合、手摺柱起立部に長棒ラージテッスルを立設する場合が現実にあること、例えば、平成八年一月二三日当時、群馬県桐生市織姫町二番五号在所の桐生市市民文化会館(仮称)新築工事現場において、腹起こしの状態のH形鋼の上に固定された足場用に、被告がリースした被告製品が、その手摺柱起立部に短棒、長棒のラージテッスルを立てる形及び手摺柱起立部に何も立てない状態で使用されていたこと、平成八年二月六日当時、東京都港区虎ノ門一丁目一番三在所の三菱石油本社ビル(仮称)新築工事現場(訴外鹿島建設株式会社施工)において、右同様に被告がリースした被告製品が手摺柱起立部に短棒、長棒のラージテッスルを立てた状態及び手摺柱起立部に何も立てない状態で使用されていたことが認められる。

右事実によれば、被告製品は、短棒、長棒のラージテッスルを立てた状態及びそのままの状態でも工事現場で実用されるものである。

(二) 原告は、ラージテッスルは通常のパイプの手摺柱に比べてリース料が著しく高いから、これをユーザーが使用することは経済的合理性の観点から通常はあり得ず、前記(一)の使用は不自然なものであって、被告製品をラージテッスルと共に使用することは実用的な用途ではない旨主張する。

しかし、前記(一)のとおり、現実に第三者の施工する工事現場において被告がリースした被告製品がラージテッスルと共に、あるいはそのままで使用されており、その使用が本件訴訟における証拠とするためことさらに作出されるなど不自然なものであると認めるに足りる特段の証拠もないことを考えれば、原告の主張は採用できない。

2  本件登録意匠と被告製品の手摺柱起立部にラージテッスルを立てた場合の意匠との類否について検討する。

(一)  被告製品に短棒ラージテッスルを立てた場合の意匠(B意匠)が別紙図面Bのとおりであり、長棒ラージテッスルを立てた場合の意匠(C意匠)が別紙図面Cのとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)(1)  前記(一)の事実によれば、B意匠の基本的構成態様は、棒状の水平支持杆と、その一方の端において直角に交わる短い手摺柱起立部を有し、手摺柱起立部から上方に伸びる支柱が、水平支持杆と側面視においてL字形の形状をなし、支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より短い二本の横手摺が伸び、正面視の全体は略逆F字形状をなし、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり、その具体的構成態様は、右側面視において水平取付部材の一部である梁部固定部の左縁を構成する板が比較的大きな略三角形状をなし、その三角形状の板の下部には固定ねじが配され、梁部固定部の右縁を構成する下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記下垂板の下端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され、水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられているものであることが認められる。

(2)  本件登録意匠とB意匠とを比較すると、まず、基本的構成態様においては、棒状の水平支持杆を有し、手摺柱あるいは支柱が、水平支持杆と側面視においてL字形の形状をなしていること、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されていることは、共通しているが、B意匠では、右支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より短い横手摺が伸びているが、本件登録意匠には、これに対応する部分がないことが相違している。

次に、具体的構成態様の共通点、相違点は、前記五2認定のとおりである。

右認定の本件登録意匠とB意匠との共通点と相違点によれば、B意匠の梁部固定部及び水平支持部の具体的構成態様が、本件類似意匠二及び三のそれと共通する点があることを参酌しても、要部である基本的構成態様において、本件登録意匠では手摺柱が上方に伸び、これと水平支持杆とが側面視においてL字形の形状をなしているのに対し、B意匠では上方に伸びる支柱が、水平支持杆と側面視においてL字形の形状をなすのみではなく、支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より短い二本の横手摺が伸び、正面視の全体は略逆F字形状をなしている点で、両者は大きく異なっており、本件登録意匠とB意匠とは、全体として看者に異なる美感を与えるものであって、両者が類似しているということはできない。

(三)(1)  また、前記(一)の事実によれば、C意匠の基本的構成態様は、棒状の水平支持杆と、その一方の端において直角に交わる短い手摺柱起立部を有し、手摺柱起立部から上方に伸びる支柱が、水平支持杆と側面視においてL字形の形状をなし、支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より長い二本の横手摺が伸び、左端近くで、上下の横手摺間に補強杆が設けられると共に、正面視において右方向に支柱より短い二本の横手摺が伸び、正面視の全体は片足のない鳥居形状をなし、側面視において略三角形をなす水平取付部材が、その水平管状部分において、水平支持杆を覆う外部管として水平支持杆に対しスライド自在に配置されたものであり、その具体的構成態様は、右側面視において水平取付部材の一部である梁部固定部の左縁を構成する板が比較的大きな略三角形状をなし、その三角形状の板の下部には固定ねじが配され、梁部固定部の右縁を構成する下垂板と水平管状部分と水平管状部分の右端から前記下垂板の下端にかけて斜めに設けられた補強杆とが中空の直角三角形状に構成され、水平支持杆の他方の端の水平支持部には水平支持杆から直接上方と下方に向けて板状の突起が設けられているものであることが認められる。

(2)  本件登録意匠とC意匠とを比較すると、基本的構成態様においては、B意匠の場合と同じ共通点を有するが、C意匠では、支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より長い横手摺が伸び、左端近くで上下の横手摺間に補強杆が設けられると共に、正面視において右方向に支柱より短い横手摺が伸び、正面視の全体は片足のない鳥居形状をなしているが、本件登録意匠には、これに対応する部分がないことが相違している。

具体的構成態様の共通点、相違点は、B意匠の場合と同じである。

そして、本件登録意匠とC意匠とは、要部である基本的構成態様において、C意匠では、支柱の上端部及び中間部から正面視において左方向に支柱より長い二本の横手摺が伸び、左端近くで上下の横手摺間に補強杆が設けられると共に、正面視において右方向に支柱より二本の横手摺が伸び、正面視の全体は片足のない鳥居形状をなしているのに対し、本件登録意匠には、これに対応する部分がないのであって、両者は要部である基本的構成態様において大きく異なっているから、全体として、看者に異なる美感を与えるものであって、B意匠と同様に両者が類似しているということはできない。

(四) 原告は、ラージテッスルの横手摺は、別の目的を持つ部分が付加されたに過ぎないものだから、横手摺があるからといって、B意匠、C意匠が本件登録意匠に類似しないとはいえない旨主張する。しかし、前記のとおり、横手摺部分はB意匠及びC意匠の要部である基本的構成態様をなすものであり、この部分の有無によりB意匠及びC意匠が全体として看者に与える美感が相違するものであるから、当然意匠の類否判断において考慮すべきものである。

3 以上によれば、短棒又は長棒のラージテッスルを被告製品に立てた場合のB意匠、C意匠は、本件登録意匠に類似しないところ、被告製品は、ラージテッスルを立てる用途にも供されるものであり、また、被告意匠は本件登録意匠に類似しないところ、五に判断したとおり、被告製品はそのままの状態でも使用されるのであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告製品が、本件登録意匠に類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物に当たると認めることはできず、原告の間接侵害の主張には理由がない。

七  結論

したがって、原告の本件請求は、いずれも理由がないことからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)

別紙

別紙

別紙

別紙

別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例